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店舗運営を効率化・最適化するエッジAIによる商品棚管理
小売り店舗は通常立地に大きく左右され、広告宣伝やキャンペーンなどを仕掛けるとしてもエリアが限られるため、基本的には「待ち」のスタンスとなります。したがって〝店づくり〟が最も大切なテーマとなるわけですが、店づくりの課題の中心はなんといっても「棚のつくり方」に集約されてきます。
現在はPOSシステムによってアイテムごとの売れ方は細かく把握できますし、毎日の接客の中で経験則的に来店客動向はある程度つかむことはできます。
さて、それでは本当に現状把握ができていて、もうこれ以上は能動的に伸び代を確保することはできないのでしょうか。この問いに、エッジAIが新しい答えをもたらしてくれるかもしれません。
こんな方におすすめの記事です
- 小売り店舗の店長など、売り上げや経費に責任を持つ立場の方
- 小売り店舗の経営をバックアップしていく立場の方
店舗の売り上げを伸ばしたいが、商品の出し入れに追われてなかなか接客サービスのクオリティを高められない。また、店づくりの基礎とも言える棚割りを最適化したいが、思うようにいかないといったケースに対して、DXの視点から新しい可能性を提示します。
店舗運営の現状と課題
言うまでもなく、どんな店舗も顧客最適化が図られていなければなりません。とはいえリソースは限られており、人ができることには限界があります。業務を効率化しつつ、顧客視点で顧客最適化を実現するには何が必要でしょうか。
小売り店舗運営における課題は次のように整理することができます。
1. 業務の効率化
- 欠品等人的エラー回避、ロスの回避
- 品出しに関わる人的リソースの効率化
- 店内レイアウト、棚割りの最適化
2. 自店の顧客を知る
- どのような顧客が来店しているのかを知る
- 顧客がどんな動きをしているのかを知る
- 顧客のニーズを知る
店舗運営のカギはAIとDX化。エッジAIを活用した業務の効率化は、店のトータルクオリティを向上させる
エッジAIによる店舗のDX化は、個々の事象の改善の積み重ねではなく、店舗運営の根本的な改変につながる可能性を秘めています。さてエッジAIとはどのようなものなのか、ここでその基本を押さえておきましょう。
店舗運営を効率化する「エッジAI」の活用とは?
1. エッジAIの基礎知識と特徴
エッジAIとは、エッジデバイス(端末)にAIを搭載したテクノロジーを指します。エッジAIを搭載する端末は、自動車や産業用ロボットから家電製品や小型のカメラのようなものまで多岐に渡ります。端末に直接AIを搭載するので、即応性やセキュリティを高めることが可能です。
2. クラウドAIとの違い
クラウドAIの場合、全てのデータはデバイスからデータセンターへ転送され、そこで蓄積・計算処理されます。大量のデータを扱える反面、転送の時間ロスにより高速処理が難しいというデメリットがあります。
クラウドAIにおける大量のデータ転送は、コスト面やセキュリティ面、プライバシー保護の側面においても不利と言われています。
3. エッジAIのメリットと今後の可能性
エッジAIは、端末にAIを搭載して瞬間的にデータを処理して結果を出せるため、細かい状況に即した判断を下すことも可能です。小売店舗において、エッジAIなら、次々と入荷する商品や刻々と変化する商品棚の状況に合わせて、レスポンスよくスタッフの動きを支援することができます。これはコスト削減にとどまらず、最終的には接客サービスの向上につながっていくことでしょう。
4. プライバシーが保護されるエッジAI
店舗でエッジAIカメラを使う場合、AIセンサーが一旦はお客様の姿を捉えます。しかし即座にデータ化(人数や性別などの属性や行動パターン)した後は映像そのものは不要なので残しません。クラウドに映像データなどを転送するクラウドAIと比較して、端末にデータ処理機能のあるエッジAIは、セキュリティ情報及びプライバシーを保護する点において圧倒的に安全度の高いシステムと言えます。
エッジAIによる店舗DX化の代表的な取り組み
1. エッジAIで実現する棚づくりの効率化と最適化
小売店舗にとって棚づくりは店づくりの生命線です。しかしその棚づくりは概ね人の力に頼っていて、マニュアル等の整備による効率化にも限界があります。できるだけスタッフのパワーを接客サービスに振り向けたいところですが、店舗運営にとって欠品はできるだけ避けなければならないので、従来のやり方ではその改善は難しいテーマでした。
エッジAIの活用は、このような限界かと思われる状況を打開する可能性があります。
品出し業務の見直し
欠品は発注業務か品出し業務のどちらかの遅れによって発生しますが、発注は通常POSによってカバーされています。一方品出しはスタッフが目視で棚を確認し、不足があれば該当アイテムごとにバックヤードに取りに行くという作業を繰り返します。売れていく速度はアイテムによってランダムなので、欠品をなくすためにスタッフは常に店全体を監視する必要に迫られ、なおかついつでも品出しに動ける体制をとっていなくてはなりません。
この業務にエッジAIを導入すると、棚を監視するAIセンサーが商品補給のタイミングを捉えますので、スタッフはディスプレイを見るだけで、常に〝その時点の〟棚の状態、つまり補充すべき棚とそのアイテムの全体像を確認することができます。スタッフの移動距離、移動回数を削減ができるほか、欠品ミスが減り精神的にもゆとりを持って業務に当たれれば店全体のクオリティアップが期待できます。
商品棚管理の効率化
棚割りは店舗経営の中核を占める要素なので当然店舗経営者の意思が反映されますが、その管理は多くの場合手動でされています。膨大な種類のアイテムが並ぶ現実の棚を、管理表などのシートに落とし込み、常に現実とシートを同期させておかなければなりません。
棚は顧客がアイテムに触れる最前線ですから埋まっていればいい、シートと間違いなく同期していればいい、というものではないはずです。
商品も顧客もどんどん変化して行く中で、棚自体もよりよい状態にブラッシュアップし続けるのは簡単なことではありません。
棚の監視をAIセンサーに任せると、それはそのまま棚割り表として出力されます。棚の管理業務のうち、シートなどに現状を落とし込むといった事務的な単純業務からは開放され、どのような配置が最適なのかといった顧客志向の棚づくり業務に重点を移すことができます。
顧客ニーズに基づく棚づくり
エッジAIセンサーは、眼の前で起こっている事柄をその場でデータ化していきます。店に並べられた商品が、どのように売れていくのかを集積され分析された形で確認することができます。このデータはよりよい商品棚づくりのための重要な資料となります。
どんな商品が売れたのか、といった全体の結果としての数値はPOSシステムで把握できていますが、それは〝売れ方の把握〟とは違います。商品おかれた位置と売れ方の因果関係とか、どんな人に売れているのだとか、顧客が何を気にして商品を手に取っているのだとかを把握することで、棚の最適化をめざしたブラッシュアップを継続的に行うことが可能です。
なおAIセンサーは店舗内で稼働しているので顧客の映像が一旦映り込みますが、その場でデーター化したあとは映像は消去され残りませんので、プライバシー侵害の恐れはありません。またクラウドに映像データを転送することもありません。
2. 顧客最適化に向けた店づくり
自店舗にどんなタイミングでどんな方が入店してくるのかは、毎日の経験からある程度把握しているものと思われます。性別や年令や職業など属性の異なる入店者が、買い物をしたのかしなかったのか、そのような軌跡で移動したのか、どれだけ滞留したのかなど入店者の行動を把握し分析できれば、棚割りはもちろん、店全体のレイアウトや運営手法の貴重な資料となります。
現場の状況に応じて、そこで起こったことを瞬時にデータとして蓄積処理するエッジAIの活用で、店舗運営に関わるさまざまな可能性を広げることができるでしょう。
店舗運営におけるエッジAIの活用事例
ローソン様の店舗DXに向けたエッジAI活用
コンビニエンスストア「ローソン」の東京都・神奈川県内の7店舗を対象に、店舗DXに向けたエッジAI活用による実証実験を行いました。実験では、店舗内にAI処理可能なエッジデバイスを数十台設置し、商品棚の状況を可視化したほか、店内に設置したカメラシステムを通じ、顧客の店内動線や滞留時間などの行動データをAI技術により解析しました。
得られたデータは、店舗施策の改善に活用するためのプロセス構築に活用されています。
店舗運営でのAI活用・DX化はエッジAIセンシングサービス「ATRIOS」をご利用ください
ATRIOSとは
「AITRIOS(アイトリオス)」は、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が展開する新たなエッジAIセンシングプラットフォームです。
本プラットフォームのキーワードである“AI”と、AITRIOSを通して社会に提供していく3つのS(Solution、Social Value、Sustainability)を意味する“trio S”を合わせた造語です。
1. 世界初*AI処理機能を搭載したソニー製インテリジェントビジョンセンサー「IMX500」
インテリジェントビジョンセンサー「IMX500」は、イメージセンサーにAI処理を内蔵した世界初のインテリジェントビジョンセンサーで、高性能なプロセッサや外部メモリーを必要とすることなく、エッジAIシステムを実現することが可能です。
通常のイメージセンサーで動画を撮影する場合データの送信が多くなり、リアルタイム性を確保することが困難でした。「IMX500」は、ISP処理および高速なAI処理を行うことにより、動画の1フレーム内で全ての処理が完結します。これにより、動画を撮影しながらの対象物の高精度なリアルタイムトラッキングが可能となります。
また、ユーザーは、任意のAIモデルをメモリーに書き込み、使用環境や条件に合わせて書き換え、アップデートすることが可能です。例えば、本製品を採用した複数台のカメラを店舗に設置した場合、1種類のカメラで、設置位置、状況、時間など目的や用途に応じて使い分けることができます。入り口であれば入店者のカウント、棚であれば商品の欠品検知、天井であれば来店者のヒートマップ(人が多く集まる場所の検知)などの複数の用途に活用できます。また、これまでヒートマップの検出に使用していたAIモデルを、消費者行動を把握するために使用するAIモデルなどに書き換えることも可能です。
2. AI開発、展開、管理するツールを提供するプラットフォーム「ATRIOS」
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が展開する新しいプラットフォームが「AITRIOS™(アイトリオス)」です。
AITRIOSは、クラウドが持つボトルネック(膨大なデータ量、プライバシーリスク、通信・処理・分析のレイテンシー、電力消費、サービスの維持、セキュリティの保持)を解消するために生み出された新たなエッジAIセンシングプラットフォームです。
このプラットフォームを通じてエッジとクラウドが共働した最適なシステムの開発が可能となり、さまざまな産業に対する新たな価値提供や課題解決に貢献することをめざします。
まとめ
「顧客を知り、顧客目線に基づいた効率的な店舗運営」は、あらゆる店舗の運営責任者がめざすところでしょう。とは言え発注・入荷・棚管理・品出しなどのバックヤード業務は待ったなしなのでおろそかにできず、なかなか店舗のクオリティを向上させることができないままでいるケースが多いのかもしれません。
エッジAIは、現場の変化をリアルタイムで捉え、効率化で店に余裕をもたせるとともに、顧客ニーズや顧客同行を経営にフィードバックしていくという点で極めて優れたシステムです。変化に合わせた経営を継続していくための強力なパートナーとなるに違いありません。