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AI時代のイメージセンサー・エッジAIを使ったセンシングの基礎知識やメリット、活用シーンを解説
IoTが普及するなかで、クラウド(データセンターなど)側が情報処理を行う従来の方式「クラウドAI」は、データ量が膨大になるにつれ負荷が大きくなり〝扱いづらい〟ものになってきました。また、端末(エッジ側)からデータを転送するスタイルは処理にタイムラグが生じる上に、コストもリスクも高いのが難点です。そこで、エッジ側にデータ処理を任せる「エッジAI」の活用が近年特に注目されるようになりました。
エッジAIとは
エッジAIとは、端末(エッジデバイス)に搭載されているAIのことです。 これまではインターネットのクラウド上にデータ送信してAI処理する「クラウドAI」が主流でしたが、IoTの活用の広がりにより、エッジ側(機器側)でAI処理する「エッジAI」に注目が集まっています。
ソニーが提供するエッジAIプラットフォーム「ATRIOS」
ソニーが開発、提供するエッジAIプラットフォーム「AITRIOS」はエッジ側のカメラに内蔵するイメージセンサーで、AI処理を実現します。
イメージセンサーは、レンズから入った光を電気信号に変換するもので、私たちの生活や社会のいたるところで活用されています。デジタルカメラなどの、人間の眼で見える光景を画像データ化するイメージング用途に加え、近年は製造現場で使われる特殊なカメラ(UV:紫外線、IR:赤外線、偏光など)のような、人間の眼には見えないさまざまな情報を取得・認識するセンシング用途にまで活躍の場を拡げつつあります。
イメージセンサーとしてのエッジAIの特徴としては、以下の点が挙げられます。
イメージセンサーとしてのエッジAIの特徴
1. 小型化・コスト削減
インテリジェントビジョンセンサーは、画像処理に加えて高速なエッジAI処理までを単体で行えます。AIエンジンと専用データメモリーをロジックチップに搭載し、さらにこのロジックチップと画素チップと重ね合わせることにより、小さなセンサーの中にAI処理機能を組み込むことに成功しました。クラウドへのデータ送信量が削減されるため、コスト削減に繋がります。
2. メタデータ出力・プライバシー配慮
画素チップから取得した信号をロジックチップで処理する過程で、ISP(Image Signal Processor)処理やAI処理を行うことにより、対象物をメタデータで出力し、扱うデータ量が削減できます。
また、画像情報を出力しないことで、セキュリティリスクを低減し、プライバシーに配慮した対応が可能となります。通常のイメージセンサーの撮影画像に加え、ISP出力形式の画像(YUV/RGB)や、特定領域のみ切り出したROI(Region of Interest)画像など、ユーザーのニーズや用途に応じて出力データの形式を選択することも可能です。
3. 高速AI処理
通常のイメージセンサーで動画を撮影する場合、出力された1フレームの画像ごとにAI処理につなげる必要があることから、データの送信が多くなり、リアルタイム性を確保することが困難でした。エッジAIでは、動画を撮影しながら、対象物の高精度なリアルタイムトラッキングが可能となります。
4. AIモデルの選択・入れ替え
複数台のカメラを店舗に設置した場合、1種類のカメラで、設置位置、状況、時間など目的や用途に応じて使い分けることができます。入り口であれば入店者のカウント、棚であれば商品の欠品検知、天井であれば来店者のヒートマップ(人が多く集まる場所の検知)などの複数の用途に活用できます。また、これまでヒートマップの検出に使用していたAIモデルを、消費者行動を把握するために使用するAIモデルなどに書き換えることも可能です。
クラウドAIとの違い
エッジAIでは、エッジデバイス内のセンサーがAI処理をするため、データの通信量が少なくて済みます。通信量はすべての画像や動画をクラウド側に送って蓄える場合と比較して格段に少なくなるため、クラウド費・通信費・消費電力を削減することができます。また、データの送信量が減るため、処理速度が向上しリアルタイム性を高めるほか、AI処理された後のデータがクラウド上に送られるため、プライバシー配慮やセキュリティの面でも高い水準をクリアすることができます。
イメージセンサーとしてのエッジAIの活用シーン
1. 人数カウント
建物や特定のエリアに出⼊りする⼈の数や交通パターンを定量化することできます。例えば、ショッピングモールなどの大型商業施設への来店者属性を分析して空間利用を最適化したり、道路交通の現況分析・問題点把握に利用して街づくりや交通行政に応用することもできます。また、人の流れを把握することで、安全性とセキュリティを向上させることにも役⽴てることができます。
2. ライセンスプレート認識
ライセンスプレートを⾃動で認識することで、駐⾞場運営者や⼩売事業者が駐⾞場の空き状況管理や課⾦を効率化するのに役⽴ちます。また、顧客管理のシステムと連携し、認識結果を共有することで、顧客ごとに最適化したサービスの提供を可能とします。
3. 動線分析
ビジョンAIが⼈のトラフィックを検出して追跡し、顧客がどのエリアでどのくらいの時間をかけているかについてインサイトを得ることができます。これにより、店舗レイアウトや商品およびスタッフの配置を最適化できたり、より効果的なマーケティングキャンペーンを実施することができたりといったメリットが生まれます。
4. スマートビルディング
ビルやオフィス管理の現場では、プライバシーと機密性を保持しながら、取得した使用状況に関する情報を使⽤して、建物の暖房、換気、空調などの設備使⽤を最適化することができます。これにより、効率の向上が可能となるためため、消費電⼒やCO2排出量の削減につながります。また、アナログメーターの読み取りを⾃動化することで、⼈件費の削減につながります。
5. 非効率業務の改善。作業効率の向上
生産の現場では、作業所の機密性に配慮しながら、⼿動チェックやストップウォッチ測定を必要とせずに、個々の部品の組み⽴てに必要な時間を視覚化したり、作業者が予期せず作業を停⽌した時間を測定したりすることができます。人によるチェックで生まれるコストを削減できるだけでなく、より精度が高い情報をもちいることで⾮効率なポイントを正確に見つけ出し、品質向上、⽣産性と歩留まりの向上に繋げることができます。
6. 工場設備の効率性改善
既存の機器をカスタマイズすることなく、機器全体の有効性を測定するために使⽤できます。⽣産設備の⼊出⼒場所にカメラを設置し、エッジAIを使⽤して稼働率とパフォーマンスを分析できます。この情報を使⽤して、従来の設備の⽣産効率を可視化し、⽣産ラインを⾒直し、⽣産性向上のための改善の効果を定量的に評価できます。
7. 店舗運営の効率化・商品棚のモニタリング
⼩売店の在庫レベルを監視し、商品の再⼊荷が必要な場合にスタッフに通知することで、在庫切れによる販売機会損失の削減、在庫管理の最適化、店舗担当者の作業負荷軽減を実現します。また、品切れ状態の商品を減らすことができます。
8. 値札・棚割チェック
事前に決定されたルールに従って商品が店頭に陳列されていることを確認し、スタッフに修正の通知を出すことができます。商品ディスプレイを整理して視覚的に魅⼒的にすることで顧客体験を向上させるとともに、販売を最適化し、⼩売業者の利益を向上させることができます。
9. 交通・スマートシティ
タクシーやバス、トラックなどの入出庫実績データの自動取得を実現し、手入力ミスも回避できます。また、トラック積載率を自動把握することで、共同配送/配車計画の最適化を可能にし、「2024年問題」ドライバー労働時間規制への対応を可能にします。小売機能と流通機能の協業が必要な現場では、入庫時に商品を認識した上で棚入れをガイドできるため、各々の商品の所在を把握し、スムーズなピッキングも実現します。
10. スマート農業・畜産
農作物や家畜などの状況をモニタリングし、最適な収穫時期や手入れおよび世話のタイミングを把握することができます。また、異常の検知をエッジAIに委ねることも可能です。これらにより、人的コストを削減したり、働き手の負担を軽減することができます。
11. 教育
生徒の学習行動や表情を分析し、理解度が低い部分を特定することにより、リアルタイムで適切な指導や追加の教材を提供することが可能になります。これにより、従来の一斉授業では見逃されがちな個々の学習ニーズに対応することができ、より効果的な学習が実現されます。
12. モビリティ
リアルタイム性が高まることにより、障害物の把握および遠隔操縦へのレスポンスが高まるため、パーソナルモビリティや自動運転サービスなどの精度向上が期待できます。
AI活用・DX化はソニーのエッジAIセンシングサービス「ATRIOS」をご利用ください
ATRIOSとは
「AITRIOS(アイトリオス)」は、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が展開する新たなエッジAIセンシングプラットフォームです。
本プラットフォームのキーワードである“AI”と、AITRIOSを通して社会に提供していく3つのS(Solution、Social Value、Sustainability)を意味する“trio S”を合わせた造語です。
1. 世界初*AI処理機能を搭載したソニー製インテリジェントビジョンセンサー「IMX500」
インテリジェントビジョンセンサー「IMX500」は、イメージセンサーにAI処理を内蔵した世界初のインテリジェントビジョンセンサーで、高性能なプロセッサや外部メモリーを必要とすることなく、エッジAIシステムを実現することが可能です。
通常のイメージセンサーで動画を撮影する場合データの送信が多くなり、リアルタイム性を確保することが困難でした。「IMX500」は、ISP処理および高速なAI処理を行うことにより、動画の1フレーム内で全ての処理が完結します。これにより、動画を撮影しながらの対象物の高精度なリアルタイムトラッキングが可能となります。
また、ユーザーは、任意のAIモデルをメモリーに書き込み、使用環境や条件に合わせて書き換え、アップデートすることが可能です。例えば、本製品を採用した複数台のカメラを店舗に設置した場合、1種類のカメラで、設置位置、状況、時間など目的や用途に応じて使い分けることができます。入り口であれば入店者のカウント、棚であれば商品の欠品検知、天井であれば来店者のヒートマップ(人が多く集まる場所の検知)などの複数の用途に活用できます。また、これまでヒートマップの検出に使用していたAIモデルを、消費者行動を把握するために使用するAIモデルなどに書き換えることも可能です。
2. AI開発、展開、管理するツールを提供するプラットフォーム「ATRIOS」
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が展開する新しいプラットフォームが「AITRIOS™(アイトリオス)」です。
AITRIOSは、クラウドが持つボトルネック(膨大なデータ量、プライバシーリスク、通信・処理・分析のレイテンシー、電力消費、サービスの維持、セキュリティの保持)を解消するために生み出された新たなエッジAIセンシングプラットフォームです。
このプラットフォームを通じてエッジとクラウドが共働した最適なシステムの開発が可能となり、さまざまな産業に対する新たな価値提供や課題解決に貢献することをめざします。
エッジAIセンシングサービス「ATRIOS」のメリット
1. クラウド費の削減
エッジAIは従来型のクラウドAIと比較して100分の1程度のデータ送信量で済むため、クラウドの容量をセーブすることができ、費用削減にも繋がります。
2. データ量の抑制
端末上でAI処理した後、クラウドにデータを送信するため、データ送信量およびクラウドに蓄積されるデータ量が削減されます。データ量が少なくなることでシステムへの負荷が減少し、格段に扱いやすいシステムとなります。
3. 消費電力の削減
省電力化を実現したデバイス上でAI処理されるため、クラウドにアップするために必要としていた電力を削減することができます。
4. プライバシーへの配慮
カメラのイメージセンサー内でメタデータ化するため、取得したいデータと直接関係ないプライバシーに関する画像データや個人情報を送信・蓄積する必要がありません。
5. セキュリティ強化
カメラのイメージセンサー内でメタデータ化することにより、分析用データをクラウドへ送信・蓄積する必要がありません。これによりセキュリティ度の高いデータの漏洩リスクが大幅に低減します。
6. AI活用に必要な各種開発ツールを提供
小型のAIモデルを簡単に開発できる仕組みや、 AIモデルの精度を設置場所にあわせて改善できる再学習サービスを提供できます。
ATRIOSの活用事例
ヴィレッジバンガード様のサイネージ視聴者分析
実際に動画を見たかどうかの視認検知までを検証する事が可能で、データの信ぴょう性が高まり、コンテンツごとの視聴率など、さまざまな分析が可能になったことでサイネージの可能性が大きく高まりました。
関連記事:顧客プライバシーにも配慮。エッジAIによる最新のデジタルサイネージ広告効果測定手法とは?
ローソン様の店舗DXに向けたエッジAI活用
コンビニエンスストア「ローソン」の東京都・神奈川県内の7店舗を対象に、店舗DXに向けたエッジAI活用による実証実験を行いました。実験では、店舗内にAI処理可能なエッジデバイスを数十台設置し、商品棚の状況を可視化したほか、店内に設置したカメラシステムを通じ、顧客の店内動線や滞留時間などの行動データをAI技術により解析しました。
得られたデータは、店舗施策の改善に活用するためのプロセス構築に活用されています。
関連記事:店舗運営を効率化・最適化するエッジAIによる商品棚管理
三井倉庫サプライチェーンソリューション様の物流倉庫の作業効率化におけるエッジAI活用
三井倉庫サプライチェーンソリューション株式会社様においてエッジAI技術の活用により、物流倉庫の荷物積み降ろし場(バース)における作業効率向上を実現するサービスを開発し、11月より提供開始しました。
本サービスは当社とHacobu社、レスター社の3社コラボレーションによって提供したもので、運送トラックによる荷物積み降ろし場の利用実績の取得や作業時間の計測を自動化することにより、ドライバーの不要な待ち時間および倉庫内従業員の作業時間の短縮に寄与しています。エッジAI技術を活用したソリューションの開発/運用を支援するSSSのエッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS™(アイトリオス)」と、Hacobuの提供するトラック予約受付サービス、レスターが開発したトラックのナンバープレート検知/認識結果と予約情報との照合判定を行うアプリケーションを組み合わせ、システム統合することで実現しました。
関連記事:物流の2024年問題の課題に挑む。作業効率化を実現するエッジAI活用とは?
まとめ
「顧客を知り、顧客目線に基づいた効率的な店舗運営」は、あらゆる店舗の運営責任者がめざすところでしょう。とは言え発注・入荷・棚管理・品出しなどのバックヤード業務は待ったなしなのでおろそかにできず、なかなか店舗のクオリティを向上させることができないままでいるケースが多いのかもしれません。
エッジAIは、現場の変化をリアルタイムで捉え、効率化で店に余裕をもたせるとともに、顧客ニーズや顧客同行を経営にフィードバックしていくという点で極めて優れたシステムです。変化に合わせた経営を継続していくための強力なパートナーとなるに違いありません。